災害時におけるペットとの関係
戦後最大の罹災規模となった、東北太平洋沖地震はその規模は、先の阪神淡路大震災をおおきくこえるものとなりました。今回の震災に限らず、過去の履災での状況においても、大震災の現場で、死傷者やけが人などが大量に出るような場合には人命が常に最優先され、ペットは見放されてしまうものです。
ただ、現実問題として、もし家が被災して住めなくなってしまったらペットはどうしますか。このコラムを読んでおられる方は、「もちろん連れて逃げます!」という方々だと思いますが、残念なことに基本的に避難所ではペットの受け入れられないと思っておいた方がよいでしょう。
震災時という緊急事態の状況下においては、全てにおいて人命が優先されます。いかに飼い主が家族同様と主張したとしてもそれは集団生活にはそぐわないものです。同様に、避難所や補給施設ではペット用に水や食料が配給されることはありません。ペットをお持ちの方は被災時には自分の水や食料とともに、ペットにも十分な用意をしておくことが必要となります。 震災時にペットはどうなる避難所に行こうと思っても「ペットを連れている方はご遠慮下さい」と言われる可能性は大きいでしょう。避難所に大きなスペースがあった場合には、ペット専用スペースを設ける場合もありますが、それはその自治体の担当や地域の防災リーダー達の考え方や被災状況によって対応が変わるものです。
たとえば、三宅島が噴火し、全島民が避難した際、避難者の飼い犬、飼い猫、約250頭は都の動物保護センターと東京都獣医師会の預かりになり、都の住宅局はさきごろ、三宅島からの避難者の人たちが入居している都営住宅では「自分のペットを外から持ち帰られても、それを追い出すことはしません」というコメントを発表し、実質上ペットと一緒に住むことを黙認する姿勢を示しました。また、この他に過去の例示を挙げるならば、阪神淡路大震災では調査した67の避難所のうちペットを連れた被災者がいるところは56ヶ所、約8割を占めていました。さらに、避難所でのペッについては、「苦情やトラブルが表面化せず共生している」と答えた避難所が約7割を占めたそうです(社団法人日本愛玩動物協会の調べ)。
しかし、今般の震災はこれに比するものとはいえぬ大きなものです。
動物好き、動物嫌いに関わらず災害に遭われた方々は非常に大きな不安とストレスを抱えていらっしゃいます。そして、もちろんペットたちも大きなストレスを抱えることになります。大規模な災害が起きた場合、避難所には様々な住民が集まってきます(何より、今般の震災では1ケ月近くを経過しても、まだ、被害の全貌が把握出来ない状態であり、避難所も仮設住宅もまだ、満足に設置されていない状態です)。
当然のことではありますが、避難所や仮設住宅の利用は、子供や老人、妊婦、病人や怪我人など災害弱者と呼ばれる方がまずは優先されるべきです。しかしそんな人たちですら全員が避難所に入れるとは限りません。東京都で直下型地震がおきた場合、23区のあるひとつの区では16万人の自宅外避難者を想定していますが、そのうち避難所に入れるのはわずか7人に1人とされており、今般の東北太平洋沖地震はまさしく、今、そうした状況下に置かれていると考えるべきでしょう。そんな所で「ペットといっしょに」と言っても、"我儘!"ととられてしまっても仕方ありません。
ただ、だからといって、ペットが全く顧みられていないという訳ではありません。阪神淡路の際には、避難所や仮設住宅に入れなかった犬猫たちや、飼い主からはぐれてしまった犬猫たちのためにシェルターがつくられ、有志の獣医さんや多くのボランティアたちがその世話や治療にたずさわりました。いっぽう有珠山噴火のときは、阪神淡路大震災と近かったため動きも早く、伊達市郊外につくられた運動場付きの動物救護センターにはボランティア5471人(総のべ人数)が集まり、収容総頭数348頭の動物たちをすべて里親に出して無事閉鎖されました。集まった動物救護援金も総額6428万円にのぼり、災害時における動物救護の対応はかなり進歩したといえそうです。
こうした経験をふまえて、いま環境省や獣医師会を中心に「有事における動物救護活動マニュアル」の作成が考えられています(諸外国の団体では既に具体的に取りまとめているようです)。そのポイントは
- 《1》【組織づくり】[国の窓口の一本化、連絡網づくり、近隣地域との連携]
- 《2》【用地の確保】[シェルターの確保、既設の動物愛護センター等の活用]
- 《3》【サポート体制】[ボランティア、物資の搬送]
- 《4》【活動内容の設定】[初期、中期、終息期、それぞれで行うべきこと]
- 《5》【活動資金の確保】[国および自治体の予算措置、募金活動]
- 《6》【.里親探し】[愛護団体・動物病院の協力体制の構築。里親資格マニュアルの作成]
の6つの段階に分かれています。
しかしながら、これらはいずれも、飼い主ひとりひとりの努力をこえた問題であるといえます。皆さんが出来ることと申せば、前述したような自治会や地域で震災時のペットの扱いを決めておいて、一時預かりが可能な拠点を設定しておくことといったことの他に次の様なことなども挙げることが出来ます。《1》[他の同種ペットとは仲良く暮らせること] 《2》[サークルでの排便・排尿ができること] 《3》[小さなケージに慣れておくこと] 《4》[好き嫌いなく食べれること] 《5》[ボランティアの人の手をわずらわせないこと(平素から、キチンと躾けておく)] 《6》[迷子にならないよう首輪とネームプレート(連絡先入り)をつけておく].........といったところでありましょう。要は、災害のために!といことで特にペットに躾けたりするような事柄は無く、日常の生活においてペットを飼う飼い主に求められていることばかりです。
なお、本稿は「暮らしのAllabout」などを参考としました。また、既に本文中でも述べた通り、環境省や獣医師会を中心に「有事における動物救護活動マニュアル」の作成が考えられています(諸外国の団体では既に具体的に取りまとめているようです)。本コラムでお話出来る内容はごく一部でしかありませんので、是非、そうした関連資料を是非、ご覧下さい。
ペットを助けるためのボランティアが到着するまでは、ずっと放置されてしまうというケースもこれまで多く報告されています。そういった悲劇を避けるためには、自治会や地域で震災時のペットの扱いを決めておいて、一時預かりが可能な拠点を設定しておくことなどが、その具体的な対処方法のひとつとして挙げることが出来ます。
犬やネコなどのペットを飼っている方は災害時に備えて、少なくともケージやハーネス・リードなど屋外での移動に困らないような準備はしておかないといけません。被災時には自分の水や食料とともに、ペットにも十分な用意をしておくこと。また火災などの発生したり、帰宅が長期的に困難と思われる場合でも、犬の首輪を外すなどして放つことは道義的にも許されませんし、新たな問題を起こす可能性があります。家族と思うならば、後まで面倒を見ることが必要です。