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お墓博士に教わる、ペットの供養

伝統的な"動物のお弔い"の習俗<後編>

<前編から続く>

ここで、「犬卒塔婆」と云う言葉を初めて聞いたと云う方のために、便宜上、いくつか辞書的な定義を見ておくのも有意義かと思います。-犬卒塔婆は、「犬供養」とか「犬送り」などとも呼ぶように、多産な犬を供養して安産・子育て守護を願うものです。大陸では、出産直前の妊婦が犬の肉を食べて安産を願うという習俗があったそうです。我が国でも同じ目的で犬を殺して神に捧げる「供犠」が行なわれていたらしいですが、こうした宗教的儀式は、犬の霊力を認める考え方に基づくもので、犬はこの世とあの世の境界を行き来して、道案内を務めるという伝承も、そうした背景から生まれたようです。犬卒塔婆は二叉に分かれたY字形で、長さ70センチ前後の雑木の棒の側面を削り、そこに供養の「如是畜生発菩提」などの経文を書き、それを村境の路傍や川辺、墓場の入口などに挿し立てて祀ります。一般に、これを立てるのは子安講の縁日が多いそうです。また、南東北から北関東にかけて、動物の死を弔う行事において、人間の安産を祈願する面があります。たとえば、犬卒塔婆に握飯を入れた藁苞 (わらづと) をつけて、村はずれの川や三差路まで鉦 (かね) ・太鼓で送っていき、そこに立て。これは無事に子どもが生まれてくることを願う安産祈願の行事である。同時に、犬供養は犬卒塔婆を村境まで送っていって立てることから、虫送りなどと同じく、村の中の災厄を村外に送り出し、再び入ってこないようにする行事ともいえます-。


さらに、もう少しだけ基本的な知識を補足すると、「関東」から「南東北」にかけては、かつて「馬」などの家畜が死んだとき、それを葬るに当たって特殊な習俗があったようです。、どこもかしこもと云う訳ではないでしょうが、かなり広い範囲で、家畜などの死体を辻や三叉路の俣、あるいは単に路傍や河原などに埋めたりしたようで、多くの場合、墓標として二股に分かれた生木の卒塔婆を立てたりしたと云います。「馬」の場合は、よく知られているように「馬頭観音」の石碑などを建てることもありましたが、「犬」の場合は既に記した二股の卒塔婆を立てるのが専らでした。このような卒塔婆を、俗に「犬卒塔婆」-家畜を供養するために、二股の木の枝をY字に伐ってつくる卒塔婆。「ザクマタ」「ザカマタ」「サンマタ」「チキショウトウバ」「フタマタトウバ」「マダガリトウバ」「マツタ木塔婆」など。「ザクマタ」系の名称が最も多く普及している気がしますが、それは筆者が「千葉県・下総地方」に住んでいるからかも知れませんから、確証はありません。大きさは一定ではありませんが、四十センチから六十センチくらいのものが標準的-と云うのは、このためであるとされています。


如何でしたでしょう。近頃の"ペット霊園"ではない、我が国で伝統的に行われてきた"動物のお弔い"の習俗について、やや急ぎ足でまとめてきました。(以前と同じような締め括りになってしまいますが)これから、お寺に足を運ぶ機会がありましたら、こうしたエピソードを掘り起こしてみるのも一興ではないでしょうか?。


なお、拙稿は「猫の神様を求めて」 http://nekonokamisama.blog3.fc2.com/blog-entry-45.html を参考としました。また、本文中、参考とされた文献は、

  • ○; 梁川町史編纂委員会/編 (1984) 『梁川町史』第十二巻・民俗篇 2、梁川町、p.513。
  • ○; 戸部民夫 (2006) 『「頼れる神様」大事典』PHP研究所、p. 164。
  • ○;『世界大百科事典』第二巻 (2007) 平凡社

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