相続に関する質問- 認知性と診断された父がもつ、遺産の相続について
Q:83歳になる父が認知症と診断されました。不動産や貯金などの資産がそれなりにあるのですが、相続の手続きはどのようにすればいいのでしょうか?
成年後見制度というものがあることも聞いたのですが、どう活用すればいいのかよく分かりません。
A:1 まず、お父様の意思を尊重してお父様が遺言書を作成するという方法が考えられます。
ただ、遺言が有効となるためには、遺言能力があることが必要となり、これが認められないと、遺言書を作成しても無効となってしまいます。遺言能力とは、遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識しうるに足る意思能力のことをいいますので、認知症など意識に関わる病気にかかった場合であっても、常に遺言能力が認められなくなるわけではありません。
しかし、病気が重度のものである場合には、遺言能力は認められないでしょう。
なお、遺言能力の有無が争われる場合には、それは一律に判断されるのではなく、遺言者の精神状態のほか、遺言内容の難易度、遺言の目的価額の多寡、作成経緯なども総合的に考慮して事案ごとに判断されることになります。
2 お父様が作成した遺言書が存在せず、遺言能力もない状況で相続が発生した場合の手続きは、遺産分割協議によることになります。
遺産の分割は、「遺産に属する物または権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況、その他一切の事情を考慮して行うことが必要である」、と法律に定められています。また、当事者の協議で調わない(ととのわない)ときには、家庭裁判所の調停および審判で行うことになります。
3 最後に成年後見制度についてですが、同制度には、任意後見と法定後見とがあります。
任意後見とは、本人に判断能力があるときに、将来、精神上の障害によって事理を弁識する能力が不十分な状況になった際の自己の生活、療養看護および財産の管理に関する事務の全部または一部を、受任者に委託しておく制度です。
そのため、既にお父様が認知症になっている本件では、任意後見の制度を利用することは難しいでしょう。
任意後見とは、家庭裁判所の判断によって開始が決められます。本人の判断能力に応じて3つの類型(後見、保佐、補助)に分かれており、利用するには本人の能力に対応して3類型のうちのどれかの開始を家庭裁判所に申し立てます。開始の決定が出され、成年後見人が裁判所により選任されると、成年後見人は被後見人の財産目録を作成し、収支の予定を立て、これに基づき被後見人のために療養看護および財産管理に関する事務を行います。
成年被後見人になっても、一時回復したときに遺言をすることは可能ですが、この場合には、医師2人以上が立ち会い、遺言者が遺言時に心神喪失の状況になかった旨を遺言書に付記して、署名・押印をする必要があります。
遺言は、本人の意思を尊重するものですから、成年後見人が被後見人に代わり遺言書を作成することはできません。